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デザインの役割

美意識を、どうやって「産業の力」に変えるか

「美しいものをつくる」だけでは、産地は続かない。デザインとは、形をつくることではなく、価値を伝え、人と産業をつなぐ力である——本トークセッションでは、そんな問いを出発点に、旭川の家具づくりを担うつくり手たちが、それぞれの「美意識」と「経営の現実」について率直に語り合います。長く使い続けられる家具をつくること。それはものづくりへの誠実さであると同時に、持続可能な産地を支えるビジネスの核心でもあります。本セッションでは、単なる造形としてのデザインを超えた「戦略としてのデザイン」を軸に、各メーカーが大切にする美の哲学と、それを産業の力へと変換するための実践と挑戦を深掘りします。

開催日時

2026年5月21日(木) 10:30–12:00

場所

旭川デザインセンター(北海道旭川市永山2条10丁目1-35)

登壇者

岡田明子(飛騨産業株式会社 代表取締役社長)
染谷哲義(株式会社カンディハウス 代表取締役社長)
平田祥貴(有限会社平田椅子製作所 取締役 事業統括マネージャー)
ファシリテーター:倉本仁(JIN KURAMOTO STUDIO)

岡田明子

染谷哲義

平田祥貴

倉本仁

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デザインの役割

レポート

美意識をどうやって、産業の力に変えるか

2026年5月、Meet Up Furniture 旭川の会期中に幕を開けた「Japan Furniture Connect Program」。産地・都市・使い手を結び日本の家具の価値を国内外へ発信する本プログラム、その第1弾となる旭川でのトークセッションでは、「美意識をどうやって産業の力に変えるか」をテーマに、飛騨産業の岡田明子氏、カンディハウスの染谷哲義氏、平田椅子製作所の平田祥貴氏が登壇した。プロダクトデザイナー・倉本仁氏のナビゲートのもと、3つの産地のつくり手が語ったのは、単なる造形としてのデザインではなく、「戦略としてのデザイン」。各社が大切にする美の哲学と、それを産業の力へと変換するための実践に迫った。

3つの産地のつくり手、それぞれの現在地

飛騨産業(飛騨家具・岡田明子氏)

1920年創業。岐阜県高山市に本社を構え、約450名の従業員とともに木製家具を製造する。節を主役にした「森のことば」、杉の圧縮技術による「HIDA」など独自の開発で知られ、2021年には志「匠の心と技を持って飛騨を木工の聖地とする」と4つの価値観を言語化。修理体制と10年保証で、長く使える家具づくりを貫く。

カンディハウス(旭川家具・染谷哲義氏)

旭川を拠点に、北海道の自然と日本の文化に育まれた美意識を生かした木製家具を手がける。輸入材中心のものづくりから地元材活用に舵を切り、ナラ、タモ、カバに加え、ニレ、セン、サクラを活用し、道産広葉樹の価値化を推進。今年90%の活用比率を目指す。先端機械と職人の手仕事を掛け合わせ、現在28カ国へ輸出する。タグラインは「ともに つくる くらし 。カンディハウス」。

平田椅子製作所(大川家具(佐賀諸富)・平田祥貴氏)

佐賀県諸富町、筑後川の中州に工場を構える椅子専門メーカー。創業から63年、木地の加工から張りまで一貫して手がける。2017年、国内外のデザイナーと共創するブランド「ARIAKE」を立ち上げ世界へ発信するほか、日本人の暮らしに寄り添う「Hirata Chair Collection」など3ブランドを展開する。

問い1:各社、それぞれの美意識

言葉にならない「美しさ」を、つくり手はどう定義するか

「私たちが考える美意識の第一歩は、素材を提供してくれる自然に対する誠実さ、森に対して正直であることです」(染谷氏)

倉本 美意識とは、何を美しいと思うか、何を良いとするかというビジョンだと思うんです。その意識の根本はどこにあるのか。それぞれのブランドの根幹にある美意識のポイントは何だと思いますか。

岡田 素材やものづくりの背景にあるものを見つめながら、それをどうしていくか、というところが1つのポイントだと思います。もう1つ。例えば「森のことば」やエンツォ・マーリさんの「HIDA」は、市場調査から生まれたプロダクトではありません。たとえ経済的なリターンが得られなくても、本質的に人々の暮らしを良くする、社会に良い影響がある。そういうことを会社の意識として持ち、表現すること。それが美意識を表現することなのではないかと思います。

倉本 企業のビジョンを作るのは、結局のところ人だと思うんですが、経営者が代替わりして岡田明子さんになったタイミングで、ビジョンが変わった部分はありますか。

岡田 変えていくつもりはなくて、「言語化した」ことが大きな変化だったと思っています。先代の時期も美意識はしっかりあって、商品開発や取り組みからそれがにじみ出る会社でした。それを私の代で言葉に落とし込んだことで、一貫性を持って取り組んでいる会社だと強く表現できるようになった。父と思いは一緒だろうと思っています。

染谷 カンディハウスの根底にあるのは、自然に対する敬意から始まる、ということです。創業期の北海道では、良質な木材が国策として海外へ輸出され、家具に使う広葉樹が一部枯渇し、輸入材に頼らざるを得ない時代が続きました。それが2014年から、「ここの木の家具・北海道プロジェクト」として道産材に価値をつけて使う活動を続けてきた結果、その比率は8割まで高まっています。これは創業の理念そのもの。そのうえで、木が育つ期間は家具を使い続ける、循環型のビジネス。そうした長く使えるものづくりを掛け合わせていくことが、当社の考える美意識だと思っています。

平田 我々の場合は、マテリアルへの視点というより、デザインを形に変えていく過程――プロセスの美意識を強く意識しています。一番わかりやすいのはARIAKEのデザインワークショップです。デザイナーとの関係性をどう表現していくか、ものづくりをデザイナーとどのような形で進めているか。そうしたプロセスをどう表現するかというところに、美意識を置いています。

倉本 僕たちがあるブランドの名前を聞いたときに何をイメージするかというのは、ブランドの内側から滲み出る「らしさ」のようなものが、その存在の輪郭をつくっていると思うんです。 わかりやすく言うと、それは人に近いと思っていて、例えばやりたいことがはっきりしている人、あるいはやりたいことはよくわからないけどうまくやっている人、色んなキャラクターの人がいますよね。企業にも近いものがあるのではないかと。 今回のテーマは、「我々はこういうキャラクターである」という輪郭を、どう他者と接続してビジネスにつなげていくかということかなと思います。 古い言い方だとブランディングという言葉も使われますが、企業の存在価値がなんなのか。結局それは、企業がもつ美意識やビジョンにあるのではないかと思いつつ今のみなさんの話を聞きました。

問い2:ブランドから発信する思想をどのように社会へ

企業の「エゴ」ではなく、社会が共感する「思想」として届けるために

「言葉にすることは、私にとって覚悟を決める行為だった気がします」(岡田氏)

倉本 美意識を産業やビジネスにつなげていくときに、他者に対するわかりやすさがとても大事だと思うんです。みなさんはとてもわかりやすい強いキャラクターがあると思うのですが、自分たちが何者かを外に発信していくとき、どのように他者や社会と接続し、コミュニケーションを作っていったのか。実例や試されたことがあれば教えてください。

平田 ARIAKEの立ち上げ時、ディレクターのGabriel Tanが重要視していたのが「アートディレクターを入れたい」ということでした。実は、ここに僕らは一番抵抗があったんです。「アートディレクターって何だ」というところからブランド作りが始まりました。ワークショップで工場に入り込んだスイス人のアーティストは、社風や雰囲気を見ながら、有明らしさをグラフィックに表現していきました。ARIAKEの独特なフォントには、ストレートな線からひょっこり飛び出したような形があるのですが、これは職人を表現しているそうです。九州の職人は普段は寡黙なのに、ワークショップ後の飲み会では豹変して、海外のデザイナーともフラットに語り合う。そんな人間性をフォントに写し取ったり、デザイナーと作り手の関係性や、製品が生まれる背景をショート動画にしてSNSで発信したり、ということをしています。

倉本 日本の企業で、アートディレクターを抱えている企業は結構少ないんですよね。海外ではほぼ必ずいて、彼らに話を聞くと「自分たちでは見えないことがあるから、見立ててもらっている」と。経営者の壁打ちの相手としてアートディレクターを選任しているところがあるのかなと思います。その接続方法を、ARIAKEは試されていたということですね。

平田 そうですね。2017年から9年間、海外の展示会に継続的に出展してきましたが、イベント後にデザイナーや建築家から「楽しそうなチームだな、仲間に入れてよ」という連絡が来るんです。この9年で、参加デザイナーは19名まで増えました。

染谷 私たちの場合、1つはまさに今回のMeet Up Furniture 旭川です。メイン会場だけでなく、出展する各メーカーがそれぞれ拠点の工場で「らしさ」をどう表現していくか。産地の底上げがあり、なおかつ各社の個性が核反応を起こす。それが強力な発信になると思っています。遠方から来てくださるお客様の一番の目当ては、ものづくりの現場なんですね。今回は製造現場からの提案で、製作過程を深掘りしたクイズ形式の企画も始めました。それから、海外のディーラーショップでは、ARIAKEさんの商品と当社の家具が1つの空間でコーディネートされていることがあります。日本代表として戦えるなら、〝共同戦線も辞さない〟という考えです。

岡田 私たちの手法自体は、展示会やPRなど本当に一般的だと思います。ただ、大事になるのは一貫性ではないかと。すぐには伝わらなくても、長期的に伝わっていき、それがブランドになっていく。私たちも2021年の事業承継のタイミングで、50年近く使った日月マークのロゴを、飛騨の木の製品の力を伝える「HIDA」に変えました。Hは組木、Iは断ち切り、Dは曲げ木、Aは飛騨の民家。これが一番インパクトのあった、社会との接続点だったと思います。

倉本 代替わりしたときに「言葉をしっかり整理して作った」というお話がありましたが、言葉が先にあると「私はこういうものです」と先に示せるので、受け取る側も理解しやすいですよね。なぜ、言葉を作ろうと思ったんですか。

岡田 「わかりやすく伝える」ことをしなくてはいけない、ということですね。言葉の精査は、突き詰めれば永遠に終わりません。だからこそ、どこで自分が良しとして、これを言い続けるかという覚悟が決まるまでのプロセスだったと思います。どの言葉を、どの長さで、言い切るのか。それも全部含めて飛騨産業らしさを表現できるか。言葉にすることは、私にとって覚悟を決める行為だった気がします。

問い3:社内に向けての美意識の共有と意識変化

外への発信の前に、まず「社内の眼差し」をどう揃えるか

「営業から製造現場まで各部門のメンバーがデザインワークショップに参加し、組織全体でブランドビジョン・温度感の共有を図るようにしました。」(平田氏)

倉本 最後に聞きたいのが、美意識を外に出すために言葉を作ったり、アートディレクターを入れたり、いろいろな手法があるわけですが、それによって企業の内側はどう変わったのか。職人さんの変化や、社内の意識の変化など、実例があれば聞かせてください。平田さんからいかがですか。

平田 デザイナーが入ることで、今まで以上にものづくりのレベルを上げなくてはいけない環境になりました。職人たちの意識も変わって、彼らの方から「このディテールを他のメーカーはどう作っているのか、デザイナーに聞いてくれ」「他のメーカーの見学に行っていいか」というボトムアップの動きが出てきたんです。それから、ワークショップの際は工場だけでなく、東京のショールームと営業所も1週間止めます。経営陣がビジョンを語っても、温度感までは100%伝わらない。だからこそ全員が参加して、温度感を共有したいんです。

倉本 チームメンバーが平田椅子製作所あるいはARIAKEの一部であるという意識の中で、一人ひとりのパフォーマンスが5%上がれば、全体の総和は100%以上の力になっていきますよね。では染谷さん、いかがですか。

染谷 今イベントの初日、できるだけ多くのお客様にヒアリングしてみたのですが、まず挙がったのが、工場見学で作業中のスタッフの会釈や、笑顔での挨拶に好感が持てた、という声でした。旭川でものづくりをしていると、スタッフ個人が外部のお客様と接する機会はなかなかない。だからこそ好機で 、言葉だけでなく、仕組みや機会を作ることが、社内で意識を統一するために重要なのだと思います。もう1つは北海道のニレ材活用の効果です。スタッフからすれば、新樹種が増えて管理も大変、という、ややもするとマイナスのイメージが先に立ちます。でも今回、新しいチャレンジの成果が出て、お客様からの反響を直ぐに社内に伝えました。頭ごなしの理屈ではなく、結果の伴う成果をもって共有すると、納得感が増しますね。

岡田 企業理念と「ロゴも変更します」を社内に共有したときは、めちゃくちゃ反対されました。「えー!」と(笑)。理念は抽象的な言葉なので、精密さを重視する職人とのコミュニケーションはすごく大変でした。それでも、一貫性を持って取り組んでいることを4〜5年発信し続けたことで、共有できてきた実感があります。年に1回、450名の全社員が参加する「対話会」も設けていて、部門を越えた8人ほどのグループで、今の自分の仕事と4つの価値観のつながりについて考え、対話してもらいます。嬉しかったのは、何気ない打ち合わせで「うちは森と歩む会社だから、こうだよね」という言葉が出てきたこと。これを続けていければ、すごく魅力的なブランドになるのではないかと思っています。まだ道半ばですが。

セッションを終えて

倉本 3社それぞれに違う取り組みとビジョンがあると感じましたし、お話を聞いて本当に楽しかったです。難しいテーマでしたが、お三方の力で、いろいろなヒントが見えたトークセッションになったのではないかと思います。どうもありがとうございました。

美意識は、素材との向き合い方、開発のプロセス、紡がれる言葉、働く一人ひとりの振る舞いにまで貫かれて、初めて産業の力になる――3者の実践が、それを示したセッションだった。

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